垂渓庵です。
表題は、現実にあった凶悪犯罪の犯人を指しているのではない。浜尾四郎の長編小説の題名だ。
わたしは、例によってkindleで読んだので、紙の本の厚さは分からないけれど、中編ということはないと思う。読み終わるまでに六時間近くかかったので、けっこう分厚い本になるのではなかろうか。
戦前の発表なので、人物設定や風俗描写などは古いところがある。が、犯人当てという点では、読んでいて十分に面白い作品だった。たぶん大方の人は犯人を当てられないのではないかと思う。当然わたしも当てられなかった。
謎に挑む探偵藤枝は、キャラクターがそれほど立っているとは言えない気がしたけれど、有栖川有栖さんの生み出した、火村英生というすさまじくキャラの立った名探偵を知ってしまったからそう言えるので、無い物ねだりなのではないかという気がしないでもない。
内容に立ち入ることは控えるけれど、先を知りたいという気持ちにさせてくれる作品であることは間違いない。
最後は、犯人が断崖に追いつめられて長広舌をふるう火曜サスペンス的な終わり方とは逆に、ストイックなまでの謎の収斂ぶりを見せる。
そういう作品作りのために、人間ドラマとしての掘り下げを期待すると、やや物足りないところがあるかもしれない。が、その点は置いておいても、読んで損はない作品だと言うことができるだろう。
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