垂渓庵です。
昨日の「ふるほん文庫やさん」、文庫本の値段設定はどうだったんだろう。もはや、忘却の彼方でしかないが、実際に購入した本でその片鱗をうかがうことができる。
『春の海』 宮城道雄著 旺文社文庫
『定本 パンセ』上・下 パスカル著 松浪信三郎訳 講談社文庫
それぞれ一冊1280円だ。
旺文社文庫は、わたしが「ふるほん文庫やさん」に行った時点では、すでに枕草子などを除いて、書店から姿を消していた。宮城道雄の『春の海』は、その中でも古書店でほとんど姿を見かけないものだった。たぶんそんなにたくさんは刷られていなかったのだろう。見つけた時には、少し胸が弾んだ。
ちなみに、宮城道雄は、神戸市出身の全盲の箏曲家だ。正月にテレビからよく流れてくる『春の海』の作曲で知られている。佐村河内某とは違って、ほんものの音楽家だ。
さらにちなみに、彼の生誕の地の碑が、フラワーロードの近くか、南京町の近くかにある。以前そのあたりをうろついていて見つけた。大きなビルの前の小さな碑だったと思う。
パスカルのパンセ自体は、珍しいものでもなんでもない。訳者を問題にしなければ、中公文庫で買うこともできた。ただ、注の分量が桁違いなのだ。中公文庫のものは、現在買えるもので650ページほど。対するに松浪信三郎訳の方は、上巻が500ページ、下巻が530ページ、総計1000ページあまり。
ちなみに、注には版の違いへの言及がけっこうある。版によって、パスカルの手稿そのものの読みや、手稿の並べ方の違いが分かるようになっている。おそるべし松浪信三郎。
ともかく、かなりの労作と言っていいのではないか。それが書店はおろか、古書店でもとんと見かけることはなかった。わたしも存在だけは知っていて、実物を見たことはなかった。それがふるほん文庫やさんの棚に並んでいたのだから、狂喜乱舞したのは当然のことだろう。
3冊とも、1280円を出しても高いとは思わなかった。いや、むしろ、よくぞ置いていてくれましたという感じだ。いそいそと購入し、帰宅の途についた。
しかし、しかし、である。今や同じ本がamazonでえらいこと低価格で買えてしまう。もちろん、宮城道雄の本が岩波文庫から出たり、パンセが抄訳ながら鹿島茂さん訳で出版されていたりと、わたしがこれらの本を買った当時と出版状況が異なるということはある。が、1円というのは、あまりにも安すぎやしないか。
ふるほん文庫やさんのような商売をしていたら、amazonの存在は、脅威以外の何物でもないだろう。いや、一般古書店にしても、か。amazonを見ていると、いかにも大量生産大量消費の国のビジネスだなあという気がする。
何にしても、ふるほん文庫やさんの値段設定は、ネットが普及する前のものであると言えるのではないだろうか。文庫に関してはここに頼め、という状況を作りたかったのだろう。目のつけどころは悪くなかったのではないかと思う。が、時代があまりにも早く動きすぎた。あの谷口という社長さん、また何か新しいビジネスモデルをひっさげて復活することはあるのだろうか。
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