垂渓庵です。
もう昔も昔、大昔の話である。高校を卒業してしばらく経った頃、今はなくなってしまった旭屋書店梅田本店ビルで本を物色していた時のことだ。高校の地学部の先輩のK田さんとばったり出くわした。3階の岩波文庫の棚の前あたりだったと思う。K田さんはおれと違って温厚を絵に描いたような人で、在学時から常に穏やかににこやかに人に接する方だった。おれたちは「久しぶり」「お久しぶりです。大学生活はどうですか」「必要な単位をとるのに忙しくて」と型どおりの会話を続けていたように思う。それが何の話からだったのか、全く覚えがないのだけれど、神は存在するかというような方向に話題が移っていった。おれはあの時フォイエルバッハの『キリスト教の本質』の上巻を買ったと思う。そんなところから話題が神がかっていったのかも知れない。
あの時も、いや、その後も、おれはずっといい加減な人間だ。いきなり「神は…」と言われても困るのだが、「神はいないと思う」というようなことを答えたのではなかったか。もしも神がいるなら、なぜべらぼうな数の戦死者を出す戦争が起こり、悲惨な境遇の人が生まれ続けるのか分からないというようなことを付け加えたと思う。
それに対するK田さんの返事はどうだったか。残念ながら忘れてしまった。その後しばらく立ち話を続けて別れた。それ以後K田さんにお目にかかることはないままだ。なぜだかそんなことを思い出した。
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