垂渓庵です。
祝詞(のりと)というものがある。七五三の折などに、神社で神主さんがむにゃむにゃと唱えるあれだ。他にも地鎮祭や神前の結婚式などでも唱えられることがある。
あの祝詞にはある程度定型がある。子供の幸せを祈ったり、工事の無事や結婚の祝福などを祈願したりするために、パターンに則って神様に語りかけるのだ。
手紙文が、拝啓で始まって、時候の挨拶、本題、敬具で止め、場合によっては追伸に続くのと似たようなものだ。
本の部屋の整理をしていて、そのパターン集が出てきた。書名は「神道大祓全集と解説」。著者は「阪井正卿」。表紙には、「興風書院蔵版」と印刷されているが、奥付を見ると、発行所は「仏教新聞社」とある。業界紙だろうか。昭和十四年に出版されたものものだ。
だいぶ前に古本屋さんで買ったものだが、すっかり忘れていた。
その本を見てみると、戦前はさまざまな場面で祝詞が上げられていたことが分かる。「祈雨祭祈念文」や「祈晴祭祈念文」などは想像がつく。「除蝗祭祝詞」も同様だ。蝗(いなご)の害は恐いし。
「上棟祭祝詞」「進水式祝詞」「地鎮祭祝詞」「井戸神祭祝詞」あたりも、わたしにはまだ理解できる。言われてみれば、それぞれの場面で神主さんが正装して祝詞を読む姿がぼんやりと想像できる。
「郵便局設置祝詞」や「商船会社支店開始祝詞」や「運送会社支店開始祝詞」や「公園開始祝詞」は、どんな流れの中で上げられることになるのか、うまく想像できない。あっても構わないとは思うけれど。
しかし、「赤十字社大会祝詞」や「競馬会開始祝詞」、「講演開始祝詞」、「著述成功祝詞」ってなんだ。そんなもの、あるのだろうか。
「運動会開始祝詞」「短艇競走開始祝詞」も同じだ。どれだけ神がかった競技会なんだ。
企業の開始祝詞ってのもある。もちろんあってもいい。いいが、変に項目が細分化されていて、しかもその挙げ方の基準が分からない。
目次には、「銀行」「織物会社」「陶磁会社」「漆器会社」「製糸会社」「染色会社」「冶金会社」「建築会社」がずらっと並んでいる。糸偏の職種が三つも並んでいるのは、時代なのかもしれないが、それにしても業種が偏りすぎていないか。順番も変だし。
祭政一致をぶちあげた林銑三郎が首相になるのが昭和十二年。まさしく時代を感じさせる神がかった本だと言えるだろう。ところで阪井正卿って誰だ。
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