2012年11月23日金曜日

旧暦10/10 邪道の聴き方──続ルイ・アームストロングの場合

垂渓庵です。

水曜日は未完成版が一時アップされてしまいました。すみませぬすみませぬ。

本題から逸れるが、最近世の中すっかり物騒になってしまっているのではなかろうか。先日妻の実家の近くで強盗事件が起こったそうだ。妻から間接的に聞いたので、詳しい事情はよく分からないけれど、犯人は刃物を持っていたらしいから、穏やかではない。いや、強盗自体が穏やかではないのだけれど。夜はしっかり戸締まりして寝ようと改めて思った次第だ。

さて、サッチモのCDの話に戻ろう。

先日紹介したCDは、サッチモの喉の調子ももう一つで、バックコーラスがこれまた雑然としたウイアーザワールド的なものという、考えようによってはとても残念なアルバムだと言えるかもしれない。

けれども、そのアルバムがわたしにはとても魅力的に映る。サッチモは、人種差別が厳しい中、長きにわたって決して明るさを失うことなく演奏を続けてきた。そんなサッチモが、渾身の力を振り絞って歌っているのである。わたしには、その事実だけで十分感動的だ。

しかも、そんなサッチモを慕って、バップやフリージャズといった、彼とはいささか異なるスタイルの演奏で活躍する面々が、七十歳の誕生日を祝うために楽器を置いて自らバックコーラスで精一杯声を張り上げる。これが感動的でなくてなんだというのか。

彼らがバックコーラスをつける曲は、アメリカ公民権運動の象徴とも言うべきWE SHALL OVERCOMEだ。なぜサッチモがこの曲を選んだのか。同じくこのアルバムに収録されているWHAT A WONDERFUL WORLDのイントロで語るサッチモのことばを見れば、その意図は明らかだろう。日本語訳を「日本ルイ・アームストロング協会」の記事から引用してみよう。一部表記をいじってある。

若い連中に、ときどきこんな事言われるんだ。
「ネェ、ポップス(親爺さん)、何処がワンダフル・ワールドなんだい?」ってね。
「世界中で戦争、人々は飢えてるし、地球は汚染。とてもワンダフルとは言えないゼ!」

でも、ちょっと待ってくれないか。私の意見も聞いて欲しい。こう思うんだ。
世界が悪いんではなくて、私達が世界にしていることが悪いんだ。つまり、あきらめないで皆が努力さえすれば、世界はもっともっとワンダフル・ワールドになるっていうことさ。一番の秘密は、ラブ。ベイビー、ラブ。愛さ!

もし、我々がもっともっと、お互いを愛し合いさえすれば、多くの問題が解決する。そうなったら、世界はそれこそ最高。だから私はいつもこう歌ってるのさ。
♫ I see trees of green, red roses too~
エンターテイナーとして常に明るく振る舞い活躍してきた彼が、その裏で何を思ってきたのか。それがここにはっきり表れている。。そして、WE SHALL OVERCOMEを選んだ。たとえサッチモの声に伸びやかさがなくても、よれていても、バックコーラスが雑然としていても、このアルバムにはかけがえのない価値があるとわたしは思うのである。

と、えらく力こぶの入ったことを書いてしまったが、楽曲の完成度を重んじる立場からすれば、このアルバムは、それほどの価値はないと思う。が、わたしは小説などを読む場合はともかく、こと音楽ということになると、上に書いたように人間的な要素をも含めて楽曲を聴いてしまう。なんでなんだろう。

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