垂渓庵です。
年に何度かお目にかかる川柳作家の方から学生アリスシリーズの短編集『江神二郎の洞察』をお借りしている。
学生アリスシリーズは、有栖川有栖さんの推理小説だ。有栖川有栖という大学生が登場するが、英都大学という架空の大学に所属する学生という設定で、作者の有栖川さんそのものではない。その有栖川有栖が所属する「推理小説研究会」の部長が江神二郎。冴え渡る推理力の持ち主で、作中での探偵役となる。彼をホームズにたとえるなら、学生の有栖川有栖はワトソンというところだろう。
さて、わたしは以前からこの学生アリスシリーズの学生たちの様子に妙な懐かしさを感じていた。『江神二郎の洞察』を読んで、その理由が分かった気がする。ああなるほどと思ったのは、「やけた線路の上の死体」で使用されている時刻表の発行年が昭和五十八年だと知った時だ。
なんのことはない。ほぼわたしがリアルタイムで学生だった時代の大学生たちが主人公なのだ。当然、キャンパスや街の空気は、わたしがまさに学生として呼吸していたものだ。大学のある場所こそ違うものの、懐かしくなるのも当たり前と言えるだろう。
ところで、話は小松左京さんに移る。小松さんの近未来SFミステリーとでも言うべき作品に、『継ぐのは誰か?』がある。1972年に出版されたようだから、学生アリスシリーズと同列には扱えないのだけれど、わたしはなぜだかこの作品の学生たちのありようにも、懐かしさを覚える。こちらは、アメリカの大学都市のサバティカル・クラスに集まる学生たちが主要登場人物だ。
時代的にもけっこう隔たりのある両作品の学生たちに、同じように懐かしさを感じるということは、ひょっとして書かれた時代はあまり関係ないのかという気もする。どちらも学生時代というもののエッセンスをうまく抽出しているのかもしれない。もっとも、就職活動の開始時期が異様に早い昨今の学生事情とはうまく一致しない可能性はあるけれど。
どちらにしても、「学生アリスシリーズ」、『継ぐのは誰か?』,どちらも四十代後半から五十代前半の方たちは読んでみるといいだろう。きっと胸を締め付けられる瞬間があるに違いない。
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