垂渓庵です。
有栖川有栖さんの短編に「壁抜け男の謎」というのがある。角川文庫の同名の短編集に収められている。なかなかしゃれた小品だと思う。が、それは今は置いておこう。
たまたま古本屋さんで水木しげるさんの貸本・短編名作選というのを見つけて買った。ホーム社発行で、集英社発売とある。よく分からない。ホーム社というのは、集英社の関連会社だろうか。まさかに、制作会社に番組を丸投げするテレビ局のように、集英社が企画を丸投げしている会社ではあるまいとは思うけれど。
さて、それも今回の主題ではない。そのホーム社の一冊『奇談 貸本・短編名作選』に、「壁抜け男」という作品があるのだ。目次によると、昭和三十九年の作品らしい。
当然戦後関係を考えたくなるわけだけれど、ちょっと影響関係が考えにくいほど作品の雰囲気が違う。かたや、おしゃれで軽快なミステリ-、かたや江戸時代物だ。もっとも、水木さんの作品もミステリー仕立てと言えば言えるけれど、やはり感じはけっこう異なる。
これは何か共通する影響元があるのではないかと思い、ちょっと検索をかけてみたところ、フランスの作家であるマルセル・エイメに、「壁抜け男」という作品があるらしいということが分かった。ウィキペディアによれば、1943年に発表されたもののようで、劇団四季のミュージカルにもなっているらしい。
発表年から考えて、これが有栖川さんと水木さんの作品の共通の祖先(?)なんじゃないかと思う。エイメの「壁抜け男」自体をまだ読んでいないので断言はできないが、他のエイメの作品から推すに、有栖川さんの「壁抜け男」のようなおしゃれな作品、水木さんの「壁抜け男」のように人間の業とでもいったものを思わせる作品、両方の発想の元になっていても不思議はないのではないかという気がする。
さて、実際はどうなのか。まずはエイメの「壁抜け男」を読んでみよう。有栖川さんにお目にかかる機会があれば聞いてみてもいいか。
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