垂渓庵です。
一時期、ラテンアメリカの小説を読んでいた。きっかけは、集英社から出版されていた『ラテンアメリカの文学』シリーズ全18冊だ。いや、さらにそのきっかけをたどると、筒井康隆さんや丸谷才一さんの書評にたどりつく。
という話はさておき、その『ラテンアメリカの文学』シリーズに、「英雄たちと墓」というエルネスト・サバトの小説が入っている。狂気に彩られたところのある濃密な小説だ。興味があれば図書館などで探してみて下さい。ちょっと長いけれど。
さて、そのサバト。1911年に生まれて、2011年に死んでいる。なんと、齢99歳と10ヶ月という長命を誇った人だ。生年を元号で表記すると、明治44年。二十一世紀に死んだ明治男ということになる。サバトは元号なんて知らないだろうけれど。
で、すごいのが発表した小説の数だ。これまた、なんと、と言うしかないのだけれど、『トンネル』『英雄たちと墓』『破壊者アバドン』の三冊だけ。明治から平成までの四つの時代を生きたのに。単純に計算すると、三十三年に一冊だ。寡作の領域を超えていると言っていいのではないか。
どんなものを書いたのか気になる人に。『トンネル』も翻訳がある。国書刊行会のラテンアメリカ文学叢書に入っている。ちょっとマニアックな叢書なので、図書館にはないかもしれないが、ネットで古本を買うことは可能なようだ。『破壊者アバドン』は未訳だ。『根絶者アバドン』と紹介されることもある。
ちなみに、梶井基次郎は31歳で亡くなっている。サバトの生涯は、おおざっぱに見積もって梶井基次郎三人分だ。梶井の残した文章は多くないけれど、彼の生涯には、おぎゃあと生まれて作家として立つまでの少なからぬ期間が含まれている。もちろんそれはサバトも同じだが、それにしても、である。思わず池波正太郎みたいな書き方になってしまう。
似たようなパターンをたどった作家を探すと、埴谷雄高に行き着く。彼も評論は数多く書いたものの、創作はほぼ『死霊』一本槍で、非常に寡作だ。文庫本で三冊分。年齢は、サバトにわずかに及ばないが、それでも90歳近くまで生きた。違うところは、サバトの最新作である『破壊者アバドン』は、1974年に発表されているのに対し、埴谷雄高は晩年まで『死霊』を書き継いだ点だ。サバト、40年も何をしていたんだ。
石堂藍さんの「作家作品案内」(幻想文学59号)によると、サバトの三作は相互に関連し合っているらしい。彼ら二人は、何らかの問題意識なり、追究すべき文学的目標なりを執拗に追い続けた作家ってことになるだろう。それにしても、100年で三冊かぁ。
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