2013年9月20日金曜日

旧暦8/16 百鬼園写真帖

垂渓庵です。

『百鬼園写真帖』(旺文社刊)は、内田百閒にまつわる写真を集め、百閒ゆかりの人たちの文章を載せる。初刷発行は1984年。まだ旺文社が文庫を持っており、内田百閒の作品を多数刊行していた頃のことだ。

当時、内田百閒の作品を手軽に読もうと思うと、旺文社文庫ぐらいしかなかったのではないか。講談社版の全集もあったけれど、持ち重りがする。今はなき六興出版からも作品集や随筆が何冊か出版されていたと思うが、あまり家の近所の本屋さんにはなかった。

そんなこんなで、お年玉などを注ぎ込んで大枚はたいて内田百閒全集を買うまで、わたしは旺文社文庫にお世話になっていた。その後、福武書店から講談社版に漏れた作品も含めた全集が出、福武文庫からも作品が陸続と刊行され、後のちくま文庫の内田百閒集成につながっていくわけだけれど、わたしの内田百閒体験の最初のスタートは旺文社文庫だ。

さて、『百鬼園写真帖』を眺めていると、とても面白い。上記の全集やシリーズものなどに挿入されている写真も多いけれど、これだけ集めてあると一種壮観だ。百閒が若い頃から晩年までおおむね口をへの字に結んでいたことも確認できる。

そんな一枚に、学生の百閒たちがドイツ語教師のカル・グセルと写した集合写真がある。この写真がとても奇妙だ。まあありきたりの集合写真なのだが、何やら首を横の友人の方に傾ける人がいるかと思うと、あらぬ方を見ている者もいる。グセルは、右目に片眼鏡をつけているように見えるが、写真の説明によれば、日本酒の王冠だということだ。何とも珍妙な記念写真だけれど、中でも極めつけは、前列中央のカル・グセルの向かって左側にいる北村孟徳だ。何と、グセルの腕に抱きついて頭を肩に載せているのだ。目をつむってたばこをくわえながら。

あらぬ方を見たり、首を横に傾けたりってのは、古い集合写真で見かけることがあるような気がしないではないが、男同士で腕に抱きついたり、肩に頭を載せたりってのは、あまり見た覚えがない。宴会での撮影のようだから、あるいは酔余の戯れなのか。何にしても、見飽きることがない一冊だ。

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