2013年5月13日月曜日

旧暦4/4 キャラコさんを巡る

垂渓庵です。

久生十蘭の『キャラコさんシリーズ』を読んでいる。戦前の小説だ。

キャラコさんはキャラコの下着を着る庶民的で明るく良識に富んで、ついでに少し大きめの口を持った十九の乙女だ。『キャラコさんシリーズ』は、彼女と様々な人たちとの交流を描いた軽いユーモア小説と言えばいいのか、少女小説と言えばいいのか、そんな作品だ。

で、そのキャラコさんの人物像がなかなかによろしい。戦前が舞台なので、時節柄的な発言なども見受けられるが、非常に好ましい人として造型されている。

さて、そのキャラコさんシリーズには、キャラコさんとほぼ同世代の娘達も登場する。その娘達の言葉遣いがけっこうぶっとんでいる。次のような感じだ。

「うへえ、いけねえ。……オペラだっていいやがる」
 と、いまいましそうに叫ぶと、ツイとピアノを離れ、揺椅子のなかへ乱暴に仰向けにひっくりかえって、不機嫌そうに黙りこんでしまった。(「社交室」より)

「じゃァ、こっちが逃げだそうッと……。あたしは、これから着がえをするから、見たい奴はついておいで」
(中略)
 越智氏が中腰になって、あわててひきとめる。
「散歩なんぞいいじゃありませんか。なにか、もうひとつうたってくださいよ」
 槇子は、いましがた社交室へはいってきた老人を露骨に指さしながら、
「あなただけでもうんざりなのに、ほら、また、あのきたないやつがはいってきた。……ごめんだわ。おもしろくもねえから、クラブ・ハウスにでも騒ぎに行くんだ」
 と、みな一緒にどやどやと出て行ってしまった。(「社交室」より)


梓さんは締金具をしめ終ると、のほうへ片手をあげて叫ぶ。
「おうい、直滑降だぞォ」
 麓にいる連中が、怒鳴ったり、拍手したりする。
「やれイ――」
「やッつけろ――イ」(「雪の山小屋」より)

見事なまでに乱暴な男言葉だ。ちなみにこの方々は一応上流階級に属すると目される。それでいてこんな言葉遣い。意外な感じがしないだろうか。久生十蘭が創り出したものなのか。あるいはある程度の実情に基づいているのか。興味のあるところだ。もちろん、キャラコさんはこんな言葉遣いをしない。

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