2012年4月6日金曜日

旧暦3/16 再掲 ハンニバル

垂渓庵です。

これは2007年12月に公開した。マヘリア・ジャクソンを紹介したついでに、音楽つながりで過去にさかのぼって記事を拾ってみた。さっきアマゾンで検索した限りでは、ハンニバルのCDはあまり売られていないようだ。特にここに紹介した2枚はともに中古での取り扱いとなっている。手軽に手に入らいだろうけれど、機会があったら聴いてみてください。

以下本文

垂渓庵です。

世の中には、怒濤のごとき迫力を感じさせる人がいます。あなたの身の回りにもきっといることでしょう。奔流のような活力の人が。歴史的人物にもそのような人がたくさんいます。

たとえばワグナーやマーラーやオルフなど。わたしは彼らにこの上ない迫力を感じます。もっとも、あまり熱心にクラシックを聴くわけではないのですが。小説家で言うなら、小松左京、バルザック、デュマあたり。哲学者ならニーチェ。

こう書くと、次のような異論がホウハイと湧き起こってくるかも知れません。「ベートーベンの立場はどうなる」とか、「音楽に迫力があるのと作曲家自身に迫力があるかどうかとは別だ」とか、「バルザックは顔の印象だけからじゃないのか」とか、「小松たち三人は体型の共通点から言ってるんだろ」とか、「哲学と 活力ってなんかしっくりこないぞ」とか…。


まことにごもっとも。わたしはノックアウト状態です。しかし、ここはわたしのごくごく主観的な印象からする判断ということでご寛恕願えればと思います。

文化の領域から現実世界に目を転じてみれば、かつて怒濤のごとき迫力を持ってアジアやヨーロッパを席巻した人たちがいます。アッティラ、チムール、チンギスハン。彼らにもわたしは活力の人という印象を抱くのです。

と書くと、「ははあ、わかった。こいつはカルタゴのハンニバルに話を持っていくつもりだな」、と得心された人もいることでしょう。しかし、残念ながらわたしはカルタゴの将軍については詳しくありません。

もっと目端の利く人は、「ふふん、やっぱりな。カルタゴのハンニバルと見せかけて、レクター博士のことを語るつもりだったわけだ。しょせんお前は孫悟空。お釈迦様の手のひらからは出られないのさ。どうだ、参ったか」と鼻の穴をふくらませておられるかもしれません。

しかし、ふくらませた鼻は元に戻してもらった方がよさそうです。わたしは、無口な羊にも、赤い竜にもあまり縁がなかったのでした。それに、レクター博士が起きようが寝坊しようが知ったことではありません。やはりレクター博士についてもほとんど語ることはないのです。

ではここでとりあげるハンニバルとは、いったい何者なのか。

それは、ジャズトランペッターのハンニバル・マーヴィン・ピーターソン("Hannibal" Marvin Peterson )です。ハンニバルは本来ミドルネームで、真ん中にくるみたいですが、アルバムにはここに記したように書かれることもあります。

彼はこれでもかというぐらいに高音域を吹きまくるトランペッターです。「HANNNIBAL」や「HANNNIBAL IN BERLIN」というアルバムを聴いてみて下さい。奔流のごときトランペットということばがぴったり来ることがよく分かるはずです。

大学時代に友人から彼の存在を教えられ、わたしは「すげえ」と思いました。そう思わない人はいないのではないでしょうか。クリフォード・ブラウンやマイル ス・デイビスなど、名手と呼ばれるジャズトランペッターは数多いますが、彼ほど軽やかにハイノートと戯れるプレイヤーはそうそういません。

怒濤のごとき、奔流のごとき彼のソロを聴いていると、ハンニバルというミドルネームは伊達ではないのだということがわかります。今では六十才近くになっているでしょうから、演奏のスタイルも変わってきているでしょうが、上記のアルバムをリリースした頃のハンニバルはまさに無敵でした。ムテキングもびっくりです。

これまでわたしのCDは押し入れの奥にしまい込まれていたのですが、先日、大掃除の機会に書棚の一隅に置くことにしました。そのために書棚の本を整理し、収まりきらない幾ばくかの本を売り払わねばならなかったのですが。

でも、わたしは満足です。ハンニバルをはじめ、ドン・チェリーやブッカー・リトル、アート・ファーマー、ハワード・マギー、ロイ・エルドリッジなどなどをまた手軽に聴けることになったのですから。そのうれしさに駆られてこんなあらずもがなの文章を草してしまいました。

ああ、結局年末までどうでもいいことの連続で終わることになってしまいました。たまにはパシッと世相でも斬ってみるかと思うのですが、わたしには無理です。荷が重すぎます。何と言っても耽読翫市だから仕方ないじゃないか。さあ殺せ。と少し太宰のテイストをきかせたところで失礼することにしましょう。それ では皆さん。よいお年を。

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