垂渓庵です。
これは古典ネタと言えばいいのだろうか。内容についてではなく、古い和本について書いたものなんだけれど。ここでは画像を多用している。華やかさのかけらもないものばかりだけれど。
以下、本文。
耽読翫市というブログ名を標榜しておきながら、考えてみれば、あまり、というかほとんど本の話を書いていません。まさに看板に偽りあり状態です。
それではあんまりなので、今回はわたしの持っている本を紹介していきながら、和本の話をしましょう。
和本というのは、今わたしたちが単行本や文庫本として目にしている本ではなく、日本で古くから作られていた伝統的な本のことを言います。和紙と墨と糸と少量の布で作られます。例をあげましょう。こんな感じのものですね。
こんなのも。
こんなのもあります。
最初のは、元禄14年(1701年)に出版された伊勢物語です。今からざっと300年前の本で、わたしの持っているものの中ではいちばん古いです。古いだけあってけっこうぼろぼろです。中身を見てみましょう。
ところどころに左ページのような挿し絵があります。本文はうねうねと続く字で書かれています。「続け字」と言います。たぶん読めない方がほとんどではないでしょうか。試しに右半分を拡大してみますね。
ちょっと見にくいかもしれませんが、二行目の和歌を今の字体に直してみます。
おきもせすねもせてよるをあかしては春の物とてなかめくらしつ
どうですか。読めますか? こんな字を一昔前の人たちは普通に読んだり書いたりしていたのです。近代化の過程で日本には大きな変化があったことがうかがえますね。
ところで、このうねうねと続く字、筆で書いたように見えますが、実は印刷です。版画のように木を彫って墨を塗って刷ってあります。そのあと、その紙を二つ折りにして重ねていき、端を糸でとじます。今で言うなら工芸品のような感じです。とても大量生産には向きません。
まず紙に文字を書く
↓
裏向きに木の板(板木と言います)に貼り付ける
↓
彫る
↓
墨を塗って刷る
↓
紙を重ねて針で穴を開けて、上下に布をあてつつ糸でとじる
和本は、何人かの職人が関わって、こんな手順で作られていきます。途中までは版画と同じような要領だと思ってください。ちなみに、先哲叢談の表紙右端に見える白い線が綴じ糸です。
その「先哲叢談」は文化13年(1895年)に出版されました。中身を見てみましょう。
ちょっと文字がぼやけて分かりづらいですが、こちらは漢字ばっかりです。やはり版画と同じ方法で作られています。すごいですね
この「先哲叢談」は、江戸時代の有名な儒学者の逸話を集めたものです。新井白石や林羅山なども登場します。漢字を読み解くことを面倒がらなければ面白い本です。
最後の「西洋夜話」は明治6年に出版されました。明治時代になっても同じような作り方で本が作られていたことがわかります。明治維新でがらりと世の中が変 わったわけではないのです。とは言え、明治時代になると日本も近代化の方向へ進んでいきます。その過程ではこの「西洋夜話」のようなちょっと毛色の変わった本も作られました。どこが変わっているのかというと、まずは次の絵をごらん下さい。
この絵、誰だと思いますか? アダムとイブです。とても日本人体型ですね
「西
洋夜話」に載っています。「西洋夜話」は、聖書時代からの西洋の歴史の概説書だと思ってください。純粋な翻訳ではないので、アダムとイブの説明部分にはイ
ザナキ、イザナミの二神が飛びだしたりします。西洋の知識を日本風にアレンジした内容で、本の作りも和本なのですね。上の絵の載っているページの見開きは
こんな感じになっています。
右ページの後ろから四行目には、イザナキ、イザナミの神が「伊邪那岐」「伊邪那美」と漢字表記で書かれています。かすれていて見にくいですが。
もうひとつ、近代への過渡期を感じさせる本を紹介しましょう。それは「博物新編訳解」という本です。理科の教科書と思えばいいでしょうか。それがこんな感じの本に作られています。
どう見ても和のテイストがぷんぷんしています。でも、中身を見ると、とても西洋っぽい絵柄です。
じゃあ、西洋風かというと、よく見ると説明が漢字ばかりです。実は序文も漢文で書かれています。この本は西洋の科学知識を伝えようと作られたものなのです が、科学用語の翻訳ひとつをとっても、まだまだ過渡期の翻訳書で、西洋のものが消化しきれていないなという印象を受けます。出版年は明治7年。もっとも、その時点ですでに「再刻」と書かれていますから、それ以前にこの本はすでに出版されていたらしいということがわかります。
その他にも江戸時代末~明治三十年代ぐらいにかけて出版された本を見ていくと、西洋化、近代化の波を受けて、日本がどんな風に変化していったかをうかがう ことができます。古い本は日本の歴史的な歩みを映し出しているということです。もちろん、和本だけじゃないですよ。洋装本と言われる本にしても、やはり歴 史の歩みを映し出しています。次の機会にはそんな本についてもご紹介したいと思います。
本の外形だけでなく中身にももっと触れたいところですが、あまりにも長くなってしまいます。本を巡る話題はまた折に触れてとりあげていくこととして、この 項を終えることにします。みなさんも古本屋さんの前を通ることがあれば、古い日本を探しに入ってみて下さい。
これは古典ネタと言えばいいのだろうか。内容についてではなく、古い和本について書いたものなんだけれど。ここでは画像を多用している。華やかさのかけらもないものばかりだけれど。
以下、本文。
耽読翫市というブログ名を標榜しておきながら、考えてみれば、あまり、というかほとんど本の話を書いていません。まさに看板に偽りあり状態です。
それではあんまりなので、今回はわたしの持っている本を紹介していきながら、和本の話をしましょう。
和本というのは、今わたしたちが単行本や文庫本として目にしている本ではなく、日本で古くから作られていた伝統的な本のことを言います。和紙と墨と糸と少量の布で作られます。例をあげましょう。こんな感じのものですね。
元禄14年に出版された伊勢物語
こんなのも。
先哲叢談
こんなのもあります。
西洋夜話
最初のは、元禄14年(1701年)に出版された伊勢物語です。今からざっと300年前の本で、わたしの持っているものの中ではいちばん古いです。古いだけあってけっこうぼろぼろです。中身を見てみましょう。
ところどころに左ページのような挿し絵があります。本文はうねうねと続く字で書かれています。「続け字」と言います。たぶん読めない方がほとんどではないでしょうか。試しに右半分を拡大してみますね。
ちょっと見にくいかもしれませんが、二行目の和歌を今の字体に直してみます。
おきもせすねもせてよるをあかしては春の物とてなかめくらしつ
どうですか。読めますか? こんな字を一昔前の人たちは普通に読んだり書いたりしていたのです。近代化の過程で日本には大きな変化があったことがうかがえますね。
ところで、このうねうねと続く字、筆で書いたように見えますが、実は印刷です。版画のように木を彫って墨を塗って刷ってあります。そのあと、その紙を二つ折りにして重ねていき、端を糸でとじます。今で言うなら工芸品のような感じです。とても大量生産には向きません。
まず紙に文字を書く
↓
裏向きに木の板(板木と言います)に貼り付ける
↓
彫る
↓
墨を塗って刷る
↓
紙を重ねて針で穴を開けて、上下に布をあてつつ糸でとじる
和本は、何人かの職人が関わって、こんな手順で作られていきます。途中までは版画と同じような要領だと思ってください。ちなみに、先哲叢談の表紙右端に見える白い線が綴じ糸です。
その「先哲叢談」は文化13年(1895年)に出版されました。中身を見てみましょう。
ちょっと文字がぼやけて分かりづらいですが、こちらは漢字ばっかりです。やはり版画と同じ方法で作られています。すごいですね

最後の「西洋夜話」は明治6年に出版されました。明治時代になっても同じような作り方で本が作られていたことがわかります。明治維新でがらりと世の中が変 わったわけではないのです。とは言え、明治時代になると日本も近代化の方向へ進んでいきます。その過程ではこの「西洋夜話」のようなちょっと毛色の変わった本も作られました。どこが変わっているのかというと、まずは次の絵をごらん下さい。
この絵、誰だと思いますか? アダムとイブです。とても日本人体型ですね

右ページの後ろから四行目には、イザナキ、イザナミの神が「伊邪那岐」「伊邪那美」と漢字表記で書かれています。かすれていて見にくいですが。
もうひとつ、近代への過渡期を感じさせる本を紹介しましょう。それは「博物新編訳解」という本です。理科の教科書と思えばいいでしょうか。それがこんな感じの本に作られています。
どう見ても和のテイストがぷんぷんしています。でも、中身を見ると、とても西洋っぽい絵柄です。
じゃあ、西洋風かというと、よく見ると説明が漢字ばかりです。実は序文も漢文で書かれています。この本は西洋の科学知識を伝えようと作られたものなのです が、科学用語の翻訳ひとつをとっても、まだまだ過渡期の翻訳書で、西洋のものが消化しきれていないなという印象を受けます。出版年は明治7年。もっとも、その時点ですでに「再刻」と書かれていますから、それ以前にこの本はすでに出版されていたらしいということがわかります。
その他にも江戸時代末~明治三十年代ぐらいにかけて出版された本を見ていくと、西洋化、近代化の波を受けて、日本がどんな風に変化していったかをうかがう ことができます。古い本は日本の歴史的な歩みを映し出しているということです。もちろん、和本だけじゃないですよ。洋装本と言われる本にしても、やはり歴 史の歩みを映し出しています。次の機会にはそんな本についてもご紹介したいと思います。
本の外形だけでなく中身にももっと触れたいところですが、あまりにも長くなってしまいます。本を巡る話題はまた折に触れてとりあげていくこととして、この 項を終えることにします。みなさんも古本屋さんの前を通ることがあれば、古い日本を探しに入ってみて下さい。
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