2011.3.21初出
垂渓庵です。
イギリスに、ポール・ジョンソンという歴史家がいる。もともとは、新聞雑誌の記者や編集に携わっていた人らしい。「キリスト教の二〇〇〇年 上・下」や 「ユダヤ人の歴史 上・下」、「近代の誕生 1~3」、「現代史 上・下」、「アメリカ人の歴史 Ⅰ~Ⅲ」、「インテレクチュアルズ」、「ルネサンスを生 きた人々」、「ナポレオン」、「ピカソなんてぷっとばせ」などなど、とにかく幅広い話題に通じていて、興味深いものを書く人だ。
分冊になっているものは、どれも一冊単行本で500ページになるんじゃないかな。「現代史」なんぞは、一冊あたり上下二段組で一冊600ページを超える。どれも読めばおなかいっぱいになること請け合いだ。
おれが読んだのは、「近代の誕生」、「インテレクチュアルズ」、「ルネサンスを生きた人々」、「ナポレオン」ぐらいのものだ。「ユダヤ人の歴史」は拾い読 み程度、「現代史」は中断中、「キリスト教の二〇〇〇年」、「アメリカ人の歴史」は、読んでないどころか、そもそも本すら持っていない。というわけで、全 体を通しての評価はできかねるが、読んだ範囲で言うと、とても面白い本を書く人だと思う。「現代史」はいずれ残りを読むつもりだし、「キリスト教の二〇〇 〇年」も読もうと思っている。「ユダヤ人の歴史」は、ええと、下巻あたりは読もうかと思っています。
さて、そのポール・ジョンソンに、「神の探求 ある歴史家の魂の旅」という本がある。カトリック教徒として、信仰について、神の存在の必然性について真摯 に考える本だ。他の著作とえらいこと趣の違う本だが、いちおう読んだ。何しろ、おれは宗教的素地のある人間だからだ。えっと、嘘です。リンク先を見てもら えれば、おれにそんなものなどちっともないことが分かるはずだ。「近代の誕生」などを読んで、面白いなこの人と思っていた折にたまたま買ったってとこだ。
ところで、このポール・ジョンソンの信仰告白にあたる本には、「いろいろな場面での祈り」と名付けられた付録がついている。その中に、[大きな挫折を味わった友のための祈り]というものがある。以下にそれを紹介しよう。
おお主よ、たった今悪い知らせを聞いたわたしの友をあわれみ、いつくしみをお示し下さい。彼がどれほど成功を望んでいたか、あなたはご存じです。彼がどれ ほど努力し、彼と彼の家族がどれほど期待していたか、あなたはご存じです。彼らの失望をあわれんでください。彼の希望に加えられたこの打撃を受け止める力 を、彼にお与えください。落胆したり絶望したりすることなく、再建に向けて新たに取り組む大きな心を彼にお与えください。そして彼の失望をなぐさめ、彼の 努力を励まし、できるかぎりの実質的な援助の手を差し伸べられる分別と知恵を、わたしにお与えください。アーメン。(「神の探求」より)
おれはカトリック教徒ではないし、彼の信仰をすべて是認しているわけではないが、彼の真摯さが、この本を、この祈りの文句を書かせたのだということは理解 できる気がする。そして、その真摯さに敬意を払う。このあたり、マヘリア・ジャクソンに対する思いと共通するものがあると言えばいいだろうか。
ここに掲げた祈りは、事業や何らかの挑戦に失敗した友人を想定しているもののように思えるが、もう少し広く一般的な意味で、大きな不幸に見舞われた隣人に 向けての祈りとしても十分読むことができる。祈りの後半にはっきりと示されているように、この祈りには、キリスト教における隣人愛という要素がこの上もな く鮮明に表れている。隣人を、同胞を襲った不幸を決して看過しないという姿勢を示しているのだ。
おれはキリスト教徒ではないが、このような姿勢は見習うべきだと思っている。その場合重要なのは、何ができるかを考えつつ、しっかりと日常生活を送ってい くことだろう。おれたちの日常生活がしっかりしていなければ、そもそも人に対して十分に援助することなどできないからだ。
おれは、今のおれの気持ちを一過性のものに終わらせないためにも、この皮肉っぽい歴史家の吐露した真摯な言葉を忘れないようにしたいと思う。被災した隣人たちのためにも。
垂渓庵です。
イギリスに、ポール・ジョンソンという歴史家がいる。もともとは、新聞雑誌の記者や編集に携わっていた人らしい。「キリスト教の二〇〇〇年 上・下」や 「ユダヤ人の歴史 上・下」、「近代の誕生 1~3」、「現代史 上・下」、「アメリカ人の歴史 Ⅰ~Ⅲ」、「インテレクチュアルズ」、「ルネサンスを生 きた人々」、「ナポレオン」、「ピカソなんてぷっとばせ」などなど、とにかく幅広い話題に通じていて、興味深いものを書く人だ。
分冊になっているものは、どれも一冊単行本で500ページになるんじゃないかな。「現代史」なんぞは、一冊あたり上下二段組で一冊600ページを超える。どれも読めばおなかいっぱいになること請け合いだ。
おれが読んだのは、「近代の誕生」、「インテレクチュアルズ」、「ルネサンスを生きた人々」、「ナポレオン」ぐらいのものだ。「ユダヤ人の歴史」は拾い読 み程度、「現代史」は中断中、「キリスト教の二〇〇〇年」、「アメリカ人の歴史」は、読んでないどころか、そもそも本すら持っていない。というわけで、全 体を通しての評価はできかねるが、読んだ範囲で言うと、とても面白い本を書く人だと思う。「現代史」はいずれ残りを読むつもりだし、「キリスト教の二〇〇 〇年」も読もうと思っている。「ユダヤ人の歴史」は、ええと、下巻あたりは読もうかと思っています。
さて、そのポール・ジョンソンに、「神の探求 ある歴史家の魂の旅」という本がある。カトリック教徒として、信仰について、神の存在の必然性について真摯 に考える本だ。他の著作とえらいこと趣の違う本だが、いちおう読んだ。何しろ、おれは宗教的素地のある人間だからだ。えっと、嘘です。リンク先を見てもら えれば、おれにそんなものなどちっともないことが分かるはずだ。「近代の誕生」などを読んで、面白いなこの人と思っていた折にたまたま買ったってとこだ。
ところで、このポール・ジョンソンの信仰告白にあたる本には、「いろいろな場面での祈り」と名付けられた付録がついている。その中に、[大きな挫折を味わった友のための祈り]というものがある。以下にそれを紹介しよう。
おお主よ、たった今悪い知らせを聞いたわたしの友をあわれみ、いつくしみをお示し下さい。彼がどれほど成功を望んでいたか、あなたはご存じです。彼がどれ ほど努力し、彼と彼の家族がどれほど期待していたか、あなたはご存じです。彼らの失望をあわれんでください。彼の希望に加えられたこの打撃を受け止める力 を、彼にお与えください。落胆したり絶望したりすることなく、再建に向けて新たに取り組む大きな心を彼にお与えください。そして彼の失望をなぐさめ、彼の 努力を励まし、できるかぎりの実質的な援助の手を差し伸べられる分別と知恵を、わたしにお与えください。アーメン。(「神の探求」より)
おれはカトリック教徒ではないし、彼の信仰をすべて是認しているわけではないが、彼の真摯さが、この本を、この祈りの文句を書かせたのだということは理解 できる気がする。そして、その真摯さに敬意を払う。このあたり、マヘリア・ジャクソンに対する思いと共通するものがあると言えばいいだろうか。
ここに掲げた祈りは、事業や何らかの挑戦に失敗した友人を想定しているもののように思えるが、もう少し広く一般的な意味で、大きな不幸に見舞われた隣人に 向けての祈りとしても十分読むことができる。祈りの後半にはっきりと示されているように、この祈りには、キリスト教における隣人愛という要素がこの上もな く鮮明に表れている。隣人を、同胞を襲った不幸を決して看過しないという姿勢を示しているのだ。
おれはキリスト教徒ではないが、このような姿勢は見習うべきだと思っている。その場合重要なのは、何ができるかを考えつつ、しっかりと日常生活を送ってい くことだろう。おれたちの日常生活がしっかりしていなければ、そもそも人に対して十分に援助することなどできないからだ。
おれは、今のおれの気持ちを一過性のものに終わらせないためにも、この皮肉っぽい歴史家の吐露した真摯な言葉を忘れないようにしたいと思う。被災した隣人たちのためにも。
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