2012年3月28日水曜日

旧暦3/7 再掲 直球勝負1 チェコの良心

垂渓庵です。

これは2008年2月に公開したもの。それまで公開した記事では本について変則的な形で述べるものが多かった。たまにはストレートに好きな作家について書いてみようと思って、「直球勝負」という名前をつけた。シリーズ化してはみたものの、「定信ったら」ほどには回を重ねられなかった。というわけで、今日はシリーズの全四本公開の予定。

以下本文

垂渓庵です。

本に関する話題をいくつか取り上げてきましたが、好きな本や作家をストレートに紹介するということをあまりしていませんでした。ここらでお気に入りの作家を何人か紹介してみることにします。今回はカレル・チャペックです。



わたしはカレル・チャペックが好きです。彼は第二次世界大戦前のチェコで、ジャーナリストとして、平和を、人道的なものごとの解決を要請し続けました。ナチスドイツの脅威が迫る中、彼のとった道は困難で、実現の可能性が少ないものでした。

しかし彼は、祖国に人々に希望を捨てずに平和を希求することを訴え続けました。彼自身、結核菌に体を冒され、苦痛にさいなまれていましたが、決して希望を捨てませんでした。明るく軽妙な筆致で人々を鼓舞し続けたのです。

ここ何年か作品集やエッセイ集、戯曲集などがいくつも出版されています。購入可能な本が何冊もあるだけでなく、今でも翻訳の新刊が出続けているのです。どれを選んだらよいか迷ってしまうほどの数です。こんな感じです。

そんな中で何を選べばよいのか、選択の方法はいろいろありますが、彼のシリアスな小説を読んでみたければ成文社の「チャペック小説選集1~5」がいいでしょう。エッセイなら恒文社の「エッセイ選集1~5」──本文を確認していないのですが、この中の紀行文が最近ちくま文庫で文庫本化されたようです──がお勧めです。どちらも読みやすい翻訳です。

手軽に読みたいのなら、平凡社ライブラリーにエッセイの選集が2冊、小品集が1冊入っています。とくに小品集の「こまった人たち」には、これまで日本語で読むことの出来なかった作品もいくつかとられています。

彼は、「ロボット」という語の生みの親としても有名です。「R.U.R.]という戯曲で用いました。ものの本によると、彼の兄のヨゼフ・チャペックが最初 に思いついたもののようですが。そんな彼の戯曲も最近「チャペック戯曲全集」という一冊本が出て、読みやすくなりました。

「ダーシェンカ」を中心とした猫や犬好きの人向けの本もありますし、「園芸家十二ヶ月」という、園芸好きの人には外せない本もあります。SF好きには「R.U.R.」はもちろん、古典SFとしての「山椒魚戦争」なども忘れられません。

彼は大上段に振りかぶった大袈裟なもの言いはしません。また、彼の意見はどちらかというと常識的な、比較的穏健なものです。その点で多少の物足りなさを感 じる人もいるかと思いますが、彼の生きた時代を考えると、彼の立場が一貫してぶれていなかったのは、感動的でさえあります。

が、わたしはそんな堅苦しいことだけを考えて彼の文章を読んでいるわけではありません。ユニークな切り口で世相を鮮やかにとらえ、人々の生活ぶりを語り、真理を鋭く突く彼の文章が単純に面白いと思うのです。

本を人に勧めるのは案外難しいものです。何を面白がるかは人それぞれですから。わたしもあえてチャペック──あるいはその他のお気に入りの作家も──を勧めようとは思いません。が、「自分は今世の中的なまっとうさよりも会社の論理を優先しようとしている」、「ああ、ずるく立ち回ろうとしているな、おれ」、「あいつを仲間はずれにするのなんか嫌だけど、自分がやられるのは嫌だしどうしよう」、「どうしてあのおばあさんを手伝ってやらなかったんだろう」、そんなことがどうしても気になってしまう方は、読んでも損はないと思います。彼に一歩を踏み出す勇気をもらって下さい。

0 件のコメント:

コメントを投稿