2012年3月28日水曜日

旧暦3/7 再掲 直球勝負3 未来の記憶

垂渓庵です。

これは2008年10月に公開した。この文章を最後に本シリーズは中断してしまった。まだまだ書きたい作家さんは何人もいる。今後、本欄で書き継いでいけたらと思う。そういえば、ホーガンも去年亡くなっているのだった。合掌。「わたしの文庫」の記事というのは、今回は省略してある。

以下本文

垂渓庵です。

好きな作家の第三弾です。

わたしはSF好きです。

今を去ること三十うん年前、幼少の砌のわたしが通う小学校の図書室には、SFを含む児童書のシリーズがいくつかあったようです。「くいしんぼうのロボット」や「生きている首」「合成怪物」などなどを読んだことを覚えています。

「くいしんぼうのロボット」は、ふるたあかねという少女が妙な世界に迷い込み、「ネカアタルフ」という名前になって活躍するという話でした。「合成怪物」は、脳だけにされた男が実験室で視覚や聴覚を持ったグロテスクな人工生命体を作り、陰謀をめぐらす組織の邪魔をしようとする話です。「生きている首」は「ドウエル教授の首」というベリャーエフの長編のジュブナイル版だったんでしょうか。文字通りドウエル教授の首から上が科学の力で生かされているという話です。


その他にもロボットものやタイムマシンものなどを読んだような気がしますが、そこらになると記憶が少し曖昧になります。某社の学習雑誌に時々掲載されるSFチックな小説なども楽しみながら読んでいたのでした。

そんなわたしでしたから、星新一さん、小松左京さん、筒井康隆さんなどなどの小説にはまるのに時間はかかりませんでした。中学ぐらいになると、以前紹介したわたしの文庫の少なからぬ部分を、彼らSF第一世代の本が占めるようになりました。

もう少し学年が進むと、主にハヤカワ文庫や創元推理文庫などで海外のSFなども読み出しました。そうそう、高校生のころにどういうわけか少し古ぼけた早川書房の世界SF全集が大阪梅田の旭屋書店に並んでいて、造本の割にとても安く値頃感があったので何冊も買ったものでした。刊行当初はわりと高価なシリーズだったそうですから、たぶん初版本が値段をつけかえられることもなく並んでいたのでしょうね。どういうわけで十年以上も返本もされずに棚に並び続けていたのか謎ですが。

そんなこんなでSFづいていたわたしがある日手にとったのが、ジェイムズ・P・ホーガンの「星を継ぐもの」(草原推理文庫)だったのです。高校から大学にかけての頃だったと思います。いやあ、その面白かったこと。夢中でページを繰りました。生物の進化や人類の起源に迫る何ともスケールの大きな話です。出だしからして秀逸です。月の調査開発がある程度進んでいる近未来。月面で宇宙服を着た人間の死体が発見されます。その死体は身元不明で、なおかつ死んでから五万年は経っている……。

どうしてそんなことが起こるのでしょうか。謎は謎を呼び、太陽系規模の壮大なストーリーが展開されます。これだけでも十分に面白いのですが、実は「星を継ぐもの」は三部作の第一部、幕開けに過ぎません。巻を追うにつれお話はさらに大きなスケールで展開していきます。わたしは続編の「ガニメデの優しい巨人」「巨人たちの星」もむさぼるよう読んでいきました。そしてさらにホーガンの作品を読み進め、既刊のものは読み尽くしてしまい、新刊が出るのを首を長くして待つ、という状態が長らく続きました。

「創世記機械」「未来の二つの顔」「未来からのホットライン」「断絶への航海」「造物主(ライフメーカー)の掟」「プロテウス・オペレーション」「終局のエニグマ」…。挙げ出すときりがありません。1980年代から90年代にかけて数多くの作品が翻訳出版されました。それらの多くは、量子力学、人工知能、パラレルワールド、星間航行、タイムマシン、異星の生命体などなど、実にSF心をくすぐる道具立てで、人間に対する信頼に満ちたわくわくするような作品になっています。それはまさにホーガン節とでも言えるものでした。

スケールの大きな、サイエンス心を満足させる作品としては、「星を継ぐもの」シリーズ、「創世記機械」~「造物主の掟」あたりがおすすめです。それ以後の作品には、既存の技術の応用的な道具立てで政治や陰謀を語るものが多くなります。好みにもよるでしょうが、わたしはどちらかというと、前者の方が好きです。が、いずれにしても彼の小説には読んで暗くなってしまうものはありません。人類も捨てたもんじゃないと思える作品が多く、読後感は最高です。折しも今は読書の秋です。たまには星空を縦横に駆け回り、壮大な規模で人類に思いをめぐらす話も面白いのではないでしょうか。

それにしても、彼の作品に限らず、SFで描かれている未来はわたしの生きている間にはやってきそうもありません。意識を持った人工知能、恒星間飛行、商業ベースに乗った核融合炉、大規模な宇宙ステーション……。どれも実現はまだまだ先のようです。すでにそれらはSFを通してわたしの記憶の一部になっているというのに。何とも不思議な感じがします。

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