2012年3月28日水曜日

旧暦3/7 再掲 直球勝負2.5 真・ユーモア・抒情

垂渓庵です。

これは2008年5月に公開した。「幻魔大戦」は、平井和正さんの人気シリーズだというのは書くまでもないか。北さんにはユーモアと叙情性を融合した作品をもっと書いてほしかった。改めて冥福を祈りたいと思う。

以下本文

垂渓庵です。

前回はとんでもなく長い前振りで終わってしまいました。
本題の北杜夫さんの話に入りましょう。というわけで、バージョン2.5です。ついでに表題に「真」の字をつけてみました。おお、幻魔大戦みたいだな、こりゃ。

では、まいります。


小学生のころに話をもどします。

始めてひとりで本屋さんに入って
何を買ったものか判断に迷っていたわたしは、
本棚を前にいたずらに時を過ごしてしまいました。
前回ご紹介した本屋さんの奥さんは、そんなわたしにぴりぴりし出します。
わたしは、奥さんに恐れおののきながら、
あまり厚くも難しくもなさそうな本を適当に選び取りました。
ウブで純真だったわたしは、
とても何も買わずに店を出る勇気がなかったのです。
いや、あの奥さんが昔のままだったとしたら、
今でも何か買って帰るに違いありません。

とにかく、わたしの選び取ったのが、
北杜夫さんの『どくとるマンボウ航海記』だったのです。
全くの偶然がこの出会いをもたらしたのですね。
いや、違うな。あのぴりぴり奥さんがもたらした出会い、か。
何にしても、買うつもりのなかった本を手に、
何か損したような気持ちで本屋さんを後にしました。

そんな買い方をしたものですから、
『航海記』もしばらくは読まずにほっていました。
そんな時に、これも何かの偶然で
『どくとるマンボウ昆虫記』を読んだのです。
これで、はまってしまいました。
嫌みではないユーモア。時にまじる抒情的な部分。
ユーモアと抒情との塩梅がとても心地よいものでした。

それで思い出したのですね。買ったままにしていた本。
あれも北杜夫の本だ、と。
で、読んでみると、こちらもとても面白かったのです。
それ以来、くだんの本屋さんの
新潮文庫と中公文庫の北杜夫さんの棚の前には
常にわたしの姿があるようになったのです。

北杜夫さんの最高傑作はおそらくは『楡家の人々』です。
やはり上質のユーモアと北さんの持つ抒情的な部分が
奇跡的な融合を果たしている傑作だと思います。
北さんは『航海記』でブレイクしたこともあり、
エッセイなどではどうしてもオーバーめのユーモアを
前面に出しておられます。
その分、純文学的な小説ではユーモアが
抑制されるきらいがあります。
時にはシリアスな面が前面に出ることも。

わたしは北さんの持ち味は、
シビアな視線に裏打ちされながらの
ユーモアと抒情との心地よい融合にこそあると
思っているのですが、
それが思わずうなってしまうほどの見事さで
達成されている作品が、
『楡家の人々』だろうと思うのです。

『どくとるマンボウ航海記』がブレイクしたのは、
北杜夫さんの経済的にはよかったに違いありませんが、
『楡家の人々』のファン的には
ちょっとした損失だったかもしれない、
と思ってみたりすることもあります。

思えばファンになってすでに三十年が過ぎました。
最近は目を通さないままのエッセイ集もいくつかあります。
これを機会に何冊か買って読んでみようと思っています。
今ではそんな怠惰なファンのわたしですが、本棚には
『昆虫記』以来買い集めた北杜夫さんの本がぎっしり並んでいます。
北さんはやはりわたしにとっては特別な作家なのです。

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