垂渓庵です。
高校生向けの推薦図書を選び、毎月一冊で一年間、計十二作品の紹介文を書くという機会がありました。選書の段階では、編集さんのアドバイスを受けたので、それなりに妥当なリストができたのではないかと思っています。
その完成版のリストについてはいずれ機会あがれば触れることにして、ここでは完成版に至る過程で日の目を見なかったリストをご紹介したいと思います。題してマニアック・バージョンです。
普通、推薦図書の選書というと、一般性が高く、かつ読み応えがあるものが中心になるのですが、このマニアック・バージョンでは、一般性という基準はかなぐり捨てました。基準は、わたしが高校生だったとして、面白がるかどうかです。
「わたしが高校生だったら、これぐらいは探し出してきて読むよ。世の読書好きの高校生の諸君、君たちはただの読書好きか? それとも知的好奇心を持った読書好きか?」という問いかけというか、挑発をしてみたくて作ったリストです。
実際の書目は以下の通りです。
○イタロ・カルヴィーノ「レ・コスミコミケ」(ハヤカワ文庫)
フェリペ・アルファウ「ロコス亭の奇妙な人々」(東京創元社?)
○堀晃「地球環」(ハルキ文庫)
斉藤緑雨「油地獄」(岩波文庫)
○石川淳「至福千年」(岩波文庫)
入澤俊「こちら泌尿器科110番」(正続続々)(草思社)
○ゴーゴリ「ディカーニカ近郷夜話」(岩波文庫)
藤枝静男「田紳有楽」(講談社文芸文庫)
トンマーゾ・ランドルフィ「カフカの父親」(国書刊行会)
○スタニスワフ・レム「砂漠の惑星」(ハヤカワ文庫)
○中島敦「文字禍」(「中島敦全集」ちくま文庫 所収)
○ホルヘ・ルイス・ボルヘス「エル・アレフ」(平凡社)
○ラブレー「ガルガンチュアとパンタグリュエル物語」
(岩波文庫・ちくま文庫)
○をつけたものが実際に高校生の頃に読んだものです。もっとも、堀晃の「地球環」は、いくつかある著作から後に再編集されたものですので、そのころはありませんでしたが。また、ラブレーのちくま文庫訳は現在刊行中で、やはり当時は存在しませんでした。
○をつけたもの以外は大学以降に読みました。ただし、高校生の頃にその存在を知っていたら、きっと読んだだろうと思います。当時のわたしの探索能力が足りなかったのですね。そうそう、一年分なのに13タイトルあるのは、閏月の分が勘定に入っているからです(笑)
これらを読んでいないと読書好き失格ってわけではもちろんありません。わたしの読書傾向は偏っていますからね。けれども、偏っているなりに自負はあります。安易に読みやすいものに流れなかったという自負です。
当時も今も、手近にある読みやすい本だけじゃなくて、読みやすいか読みにくいかはわからないけれど、面白いと思えるんじゃないかなという本を探す努力をしている方だと思います。このリストは、そんな努力の結果だと思ってください。
いろいろなものに手を出す分、もちろん、はずれも多かったですが、偏ったなりに広がりを持てたかなと思います。それと、自分の勘を頼りに読んでいくうちに、表記や語彙の難易がそんなに気にならなくなりました。
実際に本を手にとって、おもしろそうだなということになれば、文語体の小説であろうが、やたらと漢語が多い哲学書であろうが、関係なく取り組むことができるようになったのです。十分に理解できるかどうかは別問題ですが(笑)
当今のはやりを取り入れて、わたしの職場でも早朝読書の時間が週に何回かあります。その際に生徒の読んでいる本を見、また、普段読んでいる本の話を聞いていると、どうも努力せずに読めるものに流れているような感じがします。このあたりは
国語力検定のブログの
10月21日の記事へのコメントに書いた通りです。
気晴らしのための読書はあっていいですし、気楽に読むのがだめなわけではないのですが、せめて学生の間くらいは知的好奇心を持って、さまざまなジャンルの本に挑戦してほしいなと思うのです。
みなさんもマニアック・バージョンを作ることはできますか。また、その書目はどのようなものになるのでしょうか。
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